会計検査の指摘

補強鉄筋工のキャップ
法枠工のコテ仕上げ
平成8年の会検で問題となった事項
平成9年の会検で問題となった事項


 

補強鉄筋工のキャップ(会計検査を受け)

 2010年は特に補強鉄筋工について会計検査で根本的な事項やそれにつながる細かい点が聞かれた年であった。河川局の検査員でこの世界、業界にかなり詳しい検査員が進めていた。
 九州のある県の会計検査で補強鉄筋工のキャップが問題視され、その後検査は、関東、東北へと続いた。 検査の趣旨は、設計計算から、プレート、ナット、キャップ、防錆油が必要か?というものであった。
 受信側はのり面工係数μの存在から頭部の腐食は避けたい、と答弁したが、検査側は構造上、キャップ、防錆油は過大と指摘した。

 また東北では補強材そのものの防錆について問題が指摘され、以下の5項目について実施が求められた。
  ①注入材による十分なかぶりの確保
  ②孔口の隙間への硬練モルタルの充填
  ③ヘッドキャップを装着し、十分な防錆油充填
  ④腐食を考慮した補強材断面の確保(腐食しろは1mm程度)
  ⑤補強材にエポキシ樹脂、亜鉛メッキなどを塗布

 これらを受けて、一時は全国的にキャップを付けない方向に向かったが、やはり錆びるので、景観上問題がある、との考えも浮上している。

 ロックボルトの構造部材としての重要度および維持費を含めた長期ミニマムメインテナンスコストの観点も踏まえた採用材料選択の考え方も重要である。

 


法枠工のコテ仕上げ(会計検査を受け)

 2009年の会計検査で吹付モルタルの表面処理が問題視された。
 指摘は以下の通りである。
 のり枠工の設計・施工指針では、「吹付モルタルの表面処理は、コテによる仕上げを行わないことを原則とする」となっているが、現場では、見栄えの向上を主な目的としてコテ仕上げが行われている。

 これを受け以下を考慮する必要がある。
 吹付面のコテ仕上げは、枠の景観を重視する場合以外には行わない。コテ仕上げは、吹付モルタルの極端な凸部を木ゴテで除去する程 度とし、金ゴテ仕上げは行わないのがよい。金ゴテ仕上げを行うと、ブリージングを助長し、緻密に仕上がった表面組織を乱し、ひび割れを誘発する恐れがあるため、品質上好ましくない。
 設計図面に明記をした方が良い。

 

平成8年の会検で問題となった事項

ロックボルト工の施工が著しく粗雑となっていたため工事の目的を達していないもの

★ポイント・・・自穿孔型という構造にも原因があるのかもしれないが、グラウトのフロー確認や引き抜き抵抗力の確認を怠っており、施工管理に最も大きな問題がある。

構造物、対象 ロックボルト工 設計 施工 積算
工事の概要 事業 道路改良事業
工事 道路改良事業の一環として、法面の崩落防止などのため、ロックボルト工等を実施した。
キーポイント ロックボルト工は、地山の崩壊を防止するため、吹付法枠工を施工した法面6692m2(法長6.5m~22.8m)のうち、地山が軟弱なため崩壊のおそれがある上段から中段にかけての法面1834m2について、格子状の法枠の交差部分1537箇所にロックボルト(外径28.5mm、内径13mmの異形中空棒鋼、長さ2.5m又は3m)を据付けるものである。
上記のロックボルト工については、設計図書等によると次のように施工することとしていた。
①先端にビット(外径45mm)を接続したロックボルトに削孔機を取り付け法枠の交差部分の孔口から地山の削孔を行う。その際、ロックボルト内が土によって目詰まりするのを防止するため、ロックボルト内に圧縮空気等を送り込みながら行う。
②注入材(セメントミルク)をロックボルト内に注入し、先端のビットから排出させ、ロックボルトの外周のすべてに行き渡るよう充てんする。そして、注人材を孔口からあふれさせることによりその充てん状況を確認する。
③あらかじめ採取しておいた注入材によりその強度を確認した後、一定割合のロックボルトについて、油圧ジャッキを用いて必要な引抜き抵抗力(ロックボルトの長さに応じ、2.5mでは2260kgf、3mでは3370kgf)を満たしていることを確認する。
④ロックボルトの端部をナット等で法枠に締め付け定着させ、同端部を防錆のためモルタルで箱形に覆う。 これにより、多数のロックボルトと地山とが一体化して擁壁構造を形成し地山の崩壊を防止するものである。
指摘・問題 結果
ロックボルトの端部を覆った箱形のモルタルと法枠との間に空隙が生じており、不適切な施工がされていないのではないか

検査したところ、ロックボルトの端部を覆った箱形のモルタルと法枠との間に空隙(最大4cm)を生じており、ロックボルトと地山とが十分に一体化していない状況となっていた。
このため、ロックボルトの引抜き抵抗力を調査したところ、1834m2(1537箇所)のうち、1797m2(1496箇所)において、必要な引抜き抵抗力を満たしていないものが1095箇所あり、このうち229箇所は引抜き抵抗力が全くなく、残りのうち653箇所についても必要な引抜き抵抗力の50%未満となっていた。
さらに、必要な引抜き抵抗力を満たしていない23箇所のロックボルトを抜き取って調査したところ、ほとんどのロックボルトは外周に注入材が十分に付着しておらず、なかにはロックボルト内に注入材が全く充てんされていないものもあった。
このような事態となっているのは、次のようなことなどによるものと認められる。

①ロックボルト内が目詰まりするのを防止する作業を十分に行っていなかったこと
②注入材を孔口からあふれさせて充てん状況を確認する作業を怠っていたこと
③ロックボルト工を施工した後、引抜き抵抗力の確認を十分に行っていなかったこと

このように、法面1797m2に施工されたロックボルト工はその施工が著しく粗雑となっていて、ロックボルトと地山とが一体化しておらず必要な擁壁構造が形成されていない状況となっており、工事の目的を達していない。

 

 

平成9年の会検で問題となった事項

ロックボルト工の施工が著しく粗雑となっていたため工事の目的を達していないもの

★ポイント・・・施工ミスと言うよりも意図的な手抜き施工。 それを発見できない竣工検査関係者の問題も大きい。

構造物、対象 ロックボルト工 設計 施工 積算
工事の概要 事業 道路災害防除事業
工事 道路災害防除事業の一環として、道路の法面の崩壊を防止するなどのため、ロックボルト工、吹付法枠工等を実施した。
キーポイント ロックボルト工は、法面の崩壊を防止するため吹付法枠工を施工した2174m2のうち、地山が軟弱なため吹付法枠工だけでは崩壊のおそれがある1675m2について、格子状の法枠の交差部分402箇所にロックボルト(径25mmの異形棒鋼)を据付けるものである。
そして、地山のすべり層(表面からの深さ2m)の下の地盤にロックボルトの先端部を1m定着させるため、地山表面から3mの深さまで削孔し、これに長さ3.5m(3mに法枠の高さ等0.5mを加えた長さ)のロックボルトを埋め込み、吹付法枠工と一体となって地山のすべりに対して抵抗できる設計としていた。
上記のロックボルト工については、設計図書等によると次のように施工することとしていた。

①削孔機で法枠の交差部分の孔口から所定の深度まで地山の削孔を行う。
②孔底まで注入用ホースを挿入して、注入材(モルタル)を注入する。注人材を孔口からあふれさせることにより孔内に十分充てんされたことを確認した後、ロックボルトを挿入する。
③注人材が硬化した後、油圧ジャッキを用いて引抜きに対する抵抗力(7200kgf。以下「引抜き抵抗力」という。)を満たしていることを確認する。
④ロックボルトの頭部をナットで法枠に締め付け定着させ、防錆のためアルミ製のキャップで覆う。
指摘・問題 結果
注入材がロックボルトの孔内に十分充てんされていないのではないか

検査したところ、注入材がロックボルトの孔内に十分充てんされておらず、ロックボルトと法枠の間に空隙が生じている状況となっていた。
このため、ロックボルト工402箇所について、ロックボルトの長さ及び引抜き抵抗力を検査したところ、次のとおり、吹付法枠工の全面1675m2にわたる299箇所が地山のすべりに抵抗できず適切とは認められないものとなっていた。

①127箇所はロックボルトの長さが設計上必要とされる3.5mを下回っており、このうち89箇所は長さが0.5m以下で、ロックボルトが法枠の中にとどまっていて地山の表面にさえ届いていない状況となっていた。そして、この127箇所のうち65箇所は必要な引抜き抵抗力も満たしていなかった。
②上記の引抜き抵抗力を満たしていない65箇所以外にも、172箇所が必要な引抜き抵抗力を満たしていなかった。
このような事態となっているのは、次のようなことなどによるものと認められる。

(1)所定の深度まで削孔作業を行わなかったことから、3.5mの長さのロックボルトを切断していたこと
(2)注人材の注入を十分に行っていなかったり、引抜き抵抗力の確認を十分に行っていなかったりしていたこと

このように、法面1675m2に施工されたロックボルト工は、その施工が著しく粗雑となっていて、法面の崩壊を防止する効果を期待できないものとなっている。このため、ロックボルト工及びこれと一体として法面の崩壊を防止することとしていた吹付法枠工は工事の目的を達していない。