地山補強土工のトラブル例

この現場話は、日経コンストラクション2010.12.10号 「クイズ土はなぜ崩れるのか」 第55回 ■切り土法面 「補強鉄筋が利かなかったのはなぜ?」で紹介された話の詳細版です。
地山補強土が計算通り機能しなかったのはなぜ?
Q.主要地方道の局部改良工事で、山麓斜面を切土し道路の線形改良を行った。これにより高さ4〜5mの小規模な切土法面が出現した。切土面には軟質な崩積土が出現したため用心のため崩壊防止対策として、地山補強土+吹付枠工を施工した。

 この際十分大きめなすべりを考えて計画したつもりであったが、施工1ヶ月後、法面が徐々に前面に傾動し始めた。明らかに地山補強土が利いていないのである。安全サイ ドで計画したにもかかわらず地山補強土が想定通り利かなかったのはなぜだろうか?

調査、計画は一般的な方法で
 今回切取りした斜面は、もともとは15〜20゜の一律勾配の緩斜面で、地すべりの兆候を示すような地形的な乱れも一切なかった。また当該斜面での切土の計画も規模の大きなものではなかったことから、設計段階では特別な調査や対策は必要ないとの認識であった。

 ところが建設に入り、施工業者が現地を確認したところ、付近に基盤岩の露岩は一切無いことに気づいた。さらに対象斜面の地表面は樹高の高い杉で覆われていたことから、ある程度の層厚で崩積土が分布することがうかがえた。岩盤が浅所にあれば杉の大木は根が張れないと考えたのである。そして構成地質を調査ボーリングで確認することとした。

 ボーリング調査の結果では、N値10前後の軟質な土質が分布することが把握でき、その結果を受け安定解析をした結果、計画切土で地形変革した場合、斜面の安全率が0.849しか確保できず対策が必要であることがわかった。

 

 

 対策工法としては、必要な安全率を確保するための力(必要抑止力)が60kN/mと小さいこと、アンカー工を適用するには基盤岩が深すぎること、などから、地山補強土が最適の対策工法と判断し対策を計画した。
地山補強土の計画に際し重要なデータとして、定着地盤の極限周面摩擦抵抗値がある。

崩積土の極限周面摩擦抵抗値をN値10程度の砂質土と考え、τp=0.08N/mm2と設定した。これはかなり安全側のスタンスをとったはずであった。そして1断面当たり、5段配置、水平打設間隔1.2m、で安全率Fs=1.217を確保できるとして設計した。

 

■ 極限周面摩擦抵抗値
 この値は地山補強土のグラウトと周面の地盤の間の単位面積当たりの摩擦抵抗値であるが、「切土補強土工法設計・施工要領」によれば、極限周面摩擦抵抗の地盤別の推定値は、「グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説」を0.8倍したものとなっている。これはアンカー工の極限周面摩擦抵抗が加圧注入した場合の実績値を参考として設定されているのに対して、切土補強土工法ではほとんど無加圧注入されていることによる。

 一方極限周面摩擦抵抗の安全率については、アンカー工と比較して設計荷重レベルが小さく、プレストレスとして常時緊張力が作用しないことなどを勘案して永久を2.0(アンカー工の0.8倍)、仮設を1.5(アンカー工と同じ)としている。


 

鉄筋が利いていない!
 法面工造成後1ヶ月経った現場作業員の何気ない一言から騒ぎとなった。「なんか法面が立ってきた感じがしないか?」 そういえば・・・近くに寄って法面を見通してみると、1:0.5に造成したはずなのに、1:0.45くらいであろうか、明らかに傾動してきているのだ。

 「鉄筋が利いていない!」「全て安全側サイトで検討してきたのになぜ?」緊急に押え盛土を実施し、変状が収まったのを確認した後、被りの薄い1本の鉄筋がどのような状態になっているかオープン掘削で確認した。

 「グラウトが細い・・。」掘削してみると、本来ならばφ65mmあるはずのグラウトの外形が平均でφ30mm程度しかなかったのだ。また作業員からの聞き取りでも、削孔後、ボルトの挿入時にかなり孔壁に引っかかりがあったことが判明した。
これらのことから、削孔後、グラウト注入・ボルト材挿入までの間に孔壁がせりだした可能性が高いと推測できた。軟質な崩積土を単管掘りした場合には十分に起こり得る現象である。孔壁がせり出しを超えて、崩れれば、ボルトの挿入ができないため二重管掘りなどに変えることも考えられたが、せり出し程度であったため単管掘りのまま施工した。加えて注入も加圧式ではなかったために、グラウト材が孔壁から地山側に浸透することもなかったようだ。

 φ30mmの条件ではどのくらいの安全率になるのであろうか。至急条件を変えた安定計算で安全率を求めた。
 照査の結果、安全率はFs=0.974であることがわかった。実に24.3%の安全率が低下していたのだ。

今回の原因の整理
 今回、十分に安全だと考えて計画した地山補強土の中に、結果的に法面を傾動させた不安定因子が含まれていた。それを整理すると、

 @ 補強対象の地質は軟質の崩積土であった。
 A 削孔は、二重管掘りではなく、単管掘りで行った。
 B 削孔具を引き抜き後、孔壁が押し出し、孔が変形した。
 C 変形して小さくなった孔にグラウトし、ボルトを挿入した。
 D 結果φ30mmの極細のグラウト体となり、想定した摩擦抵抗面積を確保できなかった。
 E 1本当たりの耐力が減少し、法面全体の安全率が低下した。

 今回の失敗はその施工を行った時に土の中がどのようになっているかの見極めが不足していたからだといえる。上記のメカニズムを考慮していたならば、φ90mm(←φ65mm)の二重管掘り(←単管掘り)で削孔するとか、また注入は加圧注入(←無加圧注入)ができる地山補強土法を持ちいるとかするべきであった。

 補強土という工法の中で、盛土補強土工法は盛土材や転圧作業など、実際に目で確認しながらの施工が可能である。これに対して切土補強土工法は、削孔した孔の状態、グラウトの状態、補強材の状態が見えない工法であり、常に造成された補強鉄筋がどのような状態になっているかを考えることができる技術者の経験が大きくものをいう工法と言える。

 一方で計算ソフトなどの普及で、入力さえすれば誰でもが設計計算できるベースもある。それが故に余計に現場での本質的な判断ができるための経験やノウハウが技術者には求められるのである。
 

粘性土に対するもう一つの懸念
 地山補強土は軟弱な土を補強する工法である。その安定化の機構は、鉄筋と地山の摩擦力と鉄筋の強度のうちより弱い値を設計耐力としている。ただここで特筆すべきことは、”鉄筋と地山の摩擦力”それをグラウトと地山の間で破壊することを前提としていることである。設計に使われているτはあくまでもグラウトと地山の周面摩擦抵抗値なのです。

 ここで地山補強土は軟弱な土を補強する工法であるということを意識すると、鉄筋と地山の付着切れが、グラウトと地山の間ではなく、地山の中で起こってしまうこともあるのです。無論τはこの事象も考慮して参考表などは作成されていますが、設計する側の技術者もこのことはよく考慮しておくべき話である。